山田さん（仮名・30代）は、最近鏡を見るたびに頭頂部の薄毛が気になっていた。インターネットで脱毛症について調べているうちに、「脱毛症の治療は保険が効く場合がある」という情報を見つけ、一縷の望みを抱いた。もしかしたら自分のこの薄毛も、何らかの病気として扱われ、保険適用で治療できるのではないか。そう考えた山田さんは、近所の皮膚科を受診することにした。診察室で医師に頭皮の状態を見てもらい、これまでの経緯を説明した。医師は山田さんの頭皮を丁寧に観察し、いくつかの質問をした後、こう告げた。「山田さんのこの症状は、男性型脱毛症、いわゆるAGAですね」。そして、AGAのメカニズムや治療法について説明を始めた。フィナステリドという内服薬が効果的であること、ミノキシジルの外用薬との併用も考えられること。山田さんは、治療法があることに少し安堵しつつも、最も気になっていた保険適用について尋ねた。「先生、この治療は保険が使えるのでしょうか？」。医師の答えは、山田さんの期待とは異なるものだった。「残念ながら、AGA治療は美容目的と見なされるため、保険適用外の自由診療になります」。山田さんは愕然とした。ネットで見た「保険が効く場合がある」という情報は、円形脱毛症など、AGAとは異なる種類の脱毛症のことを指していたのだ。医師は続けて、治療にかかる費用や、ジェネリック医薬品を選択することで費用を抑えられる可能性などについて説明してくれたが、山田さんの頭の中は「保険適用外」という言葉でいっぱいだった。治療を諦めるべきか、それとも高額な費用を覚悟して治療に踏み切るべきか。その日は結論が出ないまま、山田さんはクリニックを後にした。今回の山田さんのケースは、AGA治療を検討する多くの人が陥りやすい誤解の一つと言えるだろう。インターネット上には様々な情報が溢れているが、その中には不正確な情報や、誤解を招きやすい表現も少なくない。特に保険適用のような重要な事柄については、自己判断せずに、必ず専門医に相談し、正確な情報を得ることが不可欠である。山田さんはその後、複数のAGA専門クリニックのカウンセリングを受け、費用や治療内容を比較検討した結果、納得のいく形で治療を開始することを決意したという。