AGA（男性型脱毛症）に関する情報は世の中に溢れていますが、その中には科学的根拠の乏しい俗説や誤解も少なくありません。これらの誤った情報に基づいて自己判断してしまうと、適切な対策が遅れたり、不必要な不安を抱えたりすることにも繋がりかねません。AGAの正しい判断基準を理解し、俗説に惑わされないことが大切です。よく聞かれる俗説の一つに、「頭皮が硬いとAGAになりやすい、またはAGAが進行している」というものがあります。確かに、頭皮の血行が悪くなると頭皮が硬くなる傾向があり、血行不良は髪の成長にとってマイナスですが、頭皮の硬さ自体がAGAの直接的な原因や判断基準となるわけではありません。AGAの主な原因は遺伝と男性ホルモンの影響であり、頭皮の硬さはあくまで間接的な要因の一つと考えられます。同様に、「頭皮が脂っぽいからAGAだ」というのもよくある誤解です。皮脂の過剰な分泌は、脂漏性皮膚炎を引き起こし、それが脱毛に繋がることはありますが、AGAの直接的な原因ではありません。AGAの人でも頭皮が乾燥している場合もあれば、そうでない人でも脂性肌であることはあります。ただし、過剰な皮脂は毛穴を詰まらせ、頭皮環境を悪化させる可能性はあるため、適切な洗髪で清潔に保つことは重要です。また、「特定のシャンプーや育毛剤を使えばAGAが治る」という期待も、誤解を生みやすい点です。市販のシャンプーや育毛剤の多くは、頭皮環境を整えたり、髪にハリやコシを与えたり、血行を促進したりすることを目的としており、AGAの進行を根本的に止める効果や、発毛を促す医学的根拠が確立されているものは限られています。AGA治療で効果が認められているのは、フィナステリドやデュタステリドといった内服薬や、ミノキシジル外用薬など、医師の処方が必要な医薬品です。これらの薬剤は、AGAの原因に直接アプローチしたり、毛母細胞を活性化させたりする作用機序が解明されています。さらに、「生活習慣を改善すればAGAは治る」というのも、完全には正しくありません。バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動、ストレスの軽減などは、髪の健康を保つ上で非常に重要であり、AGAの進行を緩やかにする可能性はありますが、AGAの根本的な原因である遺伝や男性ホルモンの影響を覆すことは困難です。