ある日突然、コインのような大きさで髪がごっそりと抜け落ちてしまう円形脱毛症。多くの人がこの症状の原因を「過度なストレス」だと信じていますが、近年の医学的研究では、単なるストレス説だけでは説明がつかないことが分かってきています。もちろん、ストレスが引き金になることはありますが、円形脱毛症の本質的な原因は「自己免疫疾患」であるという説が現在では有力です。自己免疫疾患とは、本来ならば外部から侵入してきたウイルスや細菌を攻撃して体を守るはずの免疫細胞(Tリンパ球)が、何らかの誤作動を起こし、自分自身の正常な細胞を敵とみなして攻撃してしまう病気です。円形脱毛症の場合、この暴走した免疫細胞が標的にするのが毛根組織です。成長期にある健康な毛根を異物だと認識して攻撃を仕掛けるため、毛根が急激に萎縮し、突然髪が抜け落ちてしまうのです。なぜこのような誤作動が起きるのか、その詳細なメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、遺伝的要素やアレルギー体質(アトピー性皮膚炎など)を持っている人に発症しやすい傾向があることが分かっています。つまり、円形脱毛症は「心の弱さ」からくるものではなく、体の免疫システムの「エラー」によって引き起こされる身体的な病気なのです。症状の現れ方も一様ではありません。十円玉大の脱毛斑が一つできる「単発型」が最も一般的ですが、複数が同時にできる「多発型」、それらが結合して広範囲に及ぶ「多発融合型」、さらには頭髪が全て抜け落ちる「全頭型」や、眉毛やまつ毛を含む全身の毛が抜ける「汎発型」といった重篤なケースも存在します。単発型であれば、特別な治療をしなくても数ヶ月で自然治癒することも多いですが、再発を繰り返したり範囲が広がったりする場合は、皮膚科での専門的な治療が必要になります。ステロイド剤の使用や、あえて頭皮にかぶれを起こして免疫の働きを変える局所免疫療法などが選択されます。円形脱毛症を見つけたとき、多くの人はショックを受け、「最近ストレスを溜め込んでいたせいだ」と自分を責めてしまいがちです。しかし、原因が自己免疫にあると知れば、無用な自責の念から解放されるはずです。これは誰にでも起こりうる体の反応であり、決して精神的な脆さの証明ではありません。