私たちが摂取したアルコールが、いかにして髪の健康を脅かすのか。そのメカニズムを理解するためには、体内で繰り広げられる栄養素の争奪戦について知る必要があります。口から入ったアルコールは、主に肝臓で代謝されます。この代謝プロセスは二段階に分かれており、まず「アルコール脱水素酵素(ADH)」の働きによって、アセトアルデヒドという毒性の強い物質に分解されます。このアセトアルデヒドこそが、二日酔いの頭痛や吐き気の元凶です。次に、このアセトアルデヒドを無害化するために、「アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)」が働き、最終的に無毒な酢酸へと分解します。問題は、この一連の分解プロセスで、様々な補酵素、特にビタミンやミネラルが大量に消費される点にあります。髪の毛は、その約90%が「ケラチン」というタンパク質で構成されています。そして、食事から摂ったアミノ酸をケラチンに再合成する過程で、ビタミンB群やミネラルの亜鉛が必須の役割を果たします。しかし、体内にアルコールが入ってくると、肝臓は毒物であるアセトアルデヒドの分解を最優先事項とします。その結果、髪を作るために使われるはずだったビタミンB群や亜鉛が、アルコールの解毒作業に動員されてしまうのです。これが、体内で起こる「栄養素の奪い合い」の実態です。特に、メチオニンやシスチンといった含硫アミノ酸は、ケラチンの主成分であり、アルコールの分解過程でも消費されやすいことが知られています。つまり、飲酒量が増えれば増えるほど、髪の材料となるアミノ酸と、それを使って髪を組み立てるための道具であるビタミンやミネラルの両方が、アルコール分解という緊急ミッションのために奪われていくわけです。この熾烈な争奪戦に髪が負け続けた結果、毛母細胞は栄養不足に陥り、新しく生えてくる髪は細く、弱々しくなり、やがては抜け毛の増加や薄毛の進行へとつながっていくのです。
アルコール分解と髪の栄養素の奪い合い